地下深くで生まれたワルビアル。
開花させる機会には恵まれなかったが、才能豊かで物を覚えるのが極めて早い。
長身は父親譲り。
2000年前の知られざる王レオナードの子孫。
あらゆるものを闇に隠しながら生きた彼の抽象的な「罪」に対する罰を受けて育った。
暗い部屋でずっと過ごしたために光が苦手。
「ガット」は「くたばれ!」「死に晒せ!」といった罵倒に使われる言葉で、レオナードの子孫たちを嬲り続けた古代人5人組がそう名付けた。
毎日同じように「レオナードを恨め」と言われてきたが、そのレオナードが具体的に何をしたかは言われず、長いこと疑問を抱いていた。
時には閉じ込められるだけだったり、時には暴行されたり、時には強姦されたり、時には親の悶える姿を見せつけられたりもした。首輪、手枷、足枷、ベルト、猿轡、電撃、鞭、火、水あたりはすべて経験済み。味と匂いを覚えるほどに媚薬を飲まされた。耐えられなくなったら自分から意識を切り離したりもしたが、その場合はすぐに起こされた。
次の世代も同じように嬲るために、女を抱ける程度に体型を保たされた。
10年経つと別の場所で同じことをされ、また10年経つとやはり別の場所に移動した。
20歳のとき、牢獄の持ち主である屋敷の令嬢のリコリスと出会った。
縛られているガットを見て、何も知らずに解放しようとして使用人に止められた。それが始まり。
それからリコリスは幾度と無くガットのところに来てガットの拘束を解こうとした。自分の言葉が伝わってないことに気づくと、彼に現代の言葉を教えた。貴族は器用でなくてはならないと言いながら、ガットの髪を整えた。
「貴方のご両親は貴方のことをワーツと呼んでいたわ」
「そうか…俺はワーツというのか」
あるときガットが監禁されている理由を知ると、リコリスの行動はエスカレートした。ガットの手枷と足枷の鍵を盗むことに成功すると、嬉々としてガットの拘束を解き、煌めく指輪をはめた。
「家族と縁を切ってしまったわ。ノブリス・オブリージュをすべて投げ出してきたの。ダメな女ね」
「なんで俺のためにお前が不幸になるんだ」
「目の前に苦しんでる人がいるのに見捨てるほうが不幸な女よ」
初めてのふたりのキス。
私が貴方を助けることができなくなったならばその指輪を売ってお金にしなさいと付け足して。
憎悪と恐怖しか知らなかった男に愛情というものを教えたのがリコリスだった。
その次の日、声すら挙がらないほど弱った親が目の前に投げ出された。
「お前に幸せになる権利があると思うなよ」
憎き敵はふたりの腹の肉を切り落とし、それをガットの口の中に押し込んだ。その直後リコリスが牢獄に入ってくると、その女に矛先を向け、服を脱がせた。暴れる女が鬱陶しくなると、あるひとりが足を切り落とした。
すると5人は仲間割れを始めた。
「この女に子を孕ませればいいだろ」
「こいつはそこまでされるようなことは…」
「ガットを解放しようとしたんだから当然の罰だ」
ガットは何が起きたのかわからないような顔でずっと見ていた。次第に5人は殺し合いを始めた。みるみるうちに血を失い、出す声も失ったリコリスを抱きしめて弱々しく名前を呼んだが、反応はなかった。やがて彼女の呼吸が完全に止まると、既に5人の殺し合いは収まっており、ただひとりの女が怪我を負った体を震わせながらうずくまっていた。
今しかない。
その場にあったベルトで上半身を縛り付け、首輪を繋げた。
他の4人の死体を倉庫に放り投げるところを見せたあと、両親とリコリスの死体を保管する手伝いをさせた。
古代人はみんなレオナードとその子孫を憎んでいると思っていたが、徐々にそれはあの5人だけだったのだとわかるようになる。
クレイグや忍と話すうちに古代人への恐怖心は和らいでいったが、完全になくなることはおそらくない。